受講者の非言語サインが示す抵抗感:研修・オンラインでの見極めと対応策
研修講師の皆様は、研修中に受講者が明らかに「乗ってこない」「何かをためらっている」「議論に入ってこない」といった状況に直面することがあるかもしれません。これは、受講者が内容に対して抵抗を感じているサインかもしれません。受講者の抵抗感は、研修の進行を妨げ、学習効果を低下させる可能性があります。
しかし、このような抵抗感は、言葉として直接表現されることは稀です。多くの場合、それは非言語サインとして現れます。受講者の非言語サインを正確に読み解くことで、抵抗感の兆候を早期に察知し、適切な対応を取ることが可能になります。
この記事では、研修およびオンライン研修の場面において、受講者が示す抵抗感の非言語サインをどのように見極め、それに対してどのように対応すれば良いのかについて、具体的な視点を提供いたします。
抵抗感を示す可能性のある非言語サイン
受講者が内容や状況に対して抵抗を感じている場合、様々な非言語サインが観察されることがあります。これらのサインは単独ではなく、他のサインや状況と組み合わせて解釈することが重要です。
- 姿勢・身体動作:
- 体を硬くしている、縮こまっている
- 腕や足を組んでいる(必ずしも抵抗ではないが、他のサインと合わせて注意)
- 体の向きが講師や画面から逸れている
- 椅子に深く沈み込んでいる、または逆に浅く腰掛け、すぐにでも立ち上がりそうな様子
- 頻繁に体を揺らす、貧乏ゆすりをする
- 顔の表情・視線:
- 表情が硬い、無表情である
- 眉間にしわを寄せている
- 口角が下がっている
- 目を合わせようとしない、視線を避ける
- 画面や講師ではなく、全く別の方向を見ている(オンライン研修の場合)
- 頻繁にあくびをする(必ずしも抵抗とは限らないが、飽きや疲れのサインとして抵抗に繋がることも)
- 声のトーン・話し方:
- 発言を求められた際に声が小さい、かすれている
- 語尾が曖昧になる、濁る
- 質問に対してすぐに答えず、間が長い
- 早口になったり、逆に極端に遅くなったりする
- ため息をつく
- オンライン環境特有のサイン:
- カメラがオフになっている(意図的な場合とそうでない場合があるため文脈考慮が必要)
- チャットやアンケート機能への反応が極端に少ない、または否定的な反応が多い
- ブレイクアウトルームへの参加をためらう、または消極的である
- 頻繁に画面共有を停止する、背景を変更する(現実逃避の可能性)
- 接続不良を理由に一時退出や参加を断念する(抵抗が原因の場合もある)
これらのサインは、単に疲れている、集中している、内容が難しいなど、抵抗感以外の要因で現れる可能性も十分にあります。重要なのは、これらのサインが「抵抗感の可能性を示唆するヒント」として捉えることです。
非言語サインから抵抗感を「見極める」ポイント
受講者の非言語サインが本当に抵抗感を示しているのかを見極めるためには、以下の点を意識することが有効です。
- ベースラインとの比較: 受講者の普段の非言語的な状態(リラックスしている時の姿勢や表情、話し方など)を把握しておくことが重要です。通常と異なるサインが現れた場合に、その変化が抵抗感の兆候である可能性が高まります。
- 文脈との照合: どのような場面で特定の非言語サインが現れているかに注目します。特定のトピック、講師からの問いかけ、グループワークへの指示など、特定の文脈でサインが現れる場合、その内容に対する抵抗である可能性が高いと考えられます。
- 複数のサインの組み合わせ: 単一のサインだけで判断せず、複数の非言語サインが同時に現れているかを確認します。例えば、「腕組み」だけでなく、「眉間にしわ」「視線を避ける」といったサインが組み合わさっている場合、抵抗感である可能性がより高まります。
- 言語との不一致: 受講者が言葉では「分かりました」「大丈夫です」と答えているにも関わらず、非言語サインが否定的な場合、非言語サインの方が本音を示している可能性があります。このような非言語と言語の不一致は、抵抗感を見極める上で非常に重要なヒントとなります。
- 時間的な変化: 研修の進行に伴って非言語サインがどのように変化しているかを観察します。最初は積極的だった受講者が、特定のパートから急に消極的な非言語サインを示すようになった場合、そのパートの内容に対する抵抗感が考えられます。
抵抗感を示す受講者への「対応策」
非言語サインから受講者の抵抗感を察知した場合、研修講師として適切な対応を取ることが重要です。対応策は、非言語的なアプローチと言語的なアプローチに分けられます。
- 非言語的なアプローチ:
- 講師自身の非言語を調整する: オープンな姿勢(腕組みをしない)、穏やかな表情、ゆっくりと落ち着いた声のトーンを意識することで、受講者に安心感を与え、心理的な壁を下げるよう働きかけます。
- 空間やカメラの使い方: 対面であれば、受講者との間に物理的な距離を置く、近くに行きすぎないなど、受講者がプレッシャーを感じにくい空間の使い方を工夫します。オンラインであれば、カメラの位置やアングルを調整し、威圧感を与えないように配慮します。
- 適切な視線の活用: 受講者と視線を合わせることは重要ですが、長時間見つめすぎたり、問い詰めるような視線は避けます。抵抗感を示している受講者に対しては、軽く視線を送り、「気にしていますよ」というサインを送りつつ、プレッシャーにならないよう配慮します。
- 言語的なアプローチ:
- 心理的安全性の確保: どんな発言も歓迎される雰囲気、間違いを恐れずに参加できる環境を言語でも明確に伝えます。「分からないことがあればいつでも質問してください」「〇〇について、皆さんの中で難しく感じている方はいらっしゃいますか?」といった投げかけを行います。
- オープンクエスチョンの活用: はい/いいえで答えられる質問ではなく、「〇〇について、どのように感じましたか?」「これまでの内容で、特に興味を持った点はありますか?」といった、受講者が自分の言葉で語りやすいオープンクエスチョンを用います。
- 共感と承認: 受講者が抱える可能性のある困難さや懸念に対して、共感的な姿勢を示します。「少し情報量が多かったかもしれませんね」「〇〇について、難しく感じている方もいらっしゃるかもしれません」といった言葉で、受講者の感情や状況を承認します。
- 選択肢の提供: 一方的に進めるのではなく、休憩を取るか、グループワークの進め方を変えるかなど、受講者に選択肢を提供することで、主体性を取り戻してもらうことを促します。
- インタラクションの促進: 一方的な説明の時間を短くし、質疑応答、ペアワーク、グループワーク、簡単なワークシート記入など、受講者が参加する機会を増やします。オンラインであれば、チャットでの意見交換、投票機能、ブレイクアウトルームでの短いディスカッションなどを活用します。
- 肯定的なフィードバック: 小さな参加や発言に対しても肯定的なフィードバックを行い、参加へのハードルを下げます。
注意点と限界
受講者の非言語サインを解釈し、対応する際には、いくつかの注意点があります。
- 解釈はあくまで推測: 非言語サインの解釈は推測の域を出ません。講師の解釈が必ずしも正確とは限らないことを常に念頭に置く必要があります。一つのサインだけで抵抗感だと決めつけるのは危険です。
- 文化や個人差: 非言語サインの意味は、文化や個人の性格、過去の経験によって大きく異なります。特定のサインが特定の感情を示す普遍的なものではないことを理解しておく必要があります。
- 他の要因の考慮: 抵抗感以外にも、疲労、体調不良、個人的な悩み、集中力の欠如など、様々な要因が非言語サインに影響を与えます。これらの可能性も考慮に入れる必要があります。
- プライバシーへの配慮: 非言語サインは非常に個人的な情報を含む場合があります。深層心理を探るような過度な詮索や、受講者を追い詰めるような問いかけは避けるべきです。あくまで、研修をより効果的に進めるためのヒントとして活用します。
まとめ
研修およびオンライン研修において、受講者の抵抗感は学習効果に影響を与える重要な要素です。この抵抗感は、多くの場合、非言語サインとして表面化します。
受講者が示す姿勢、表情、視線、声のトーン、オンライン環境での特定の行動パターンなどを注意深く観察し、それらが抵抗感を示唆している可能性を読み解くことは、研修講師にとって非常に有用なスキルです。しかし、サインの解釈は推測であり、文脈や他の要因、個人差を考慮に入れる必要があります。
非言語サインから抵抗感を察知した場合、講師自身の非言語コミュニケーションを調整したり、オープンな質問や共感的な働きかけを行ったりすることで、受講者の心理的な障壁を取り除くよう働きかけることが重要です。オンライン環境であれば、ツールを活用した多様な参加機会を提供することも有効な対応策となります。
非言語サインから受講者の抵抗感を理解し、適切に対応することは、受講者のエンゲージメントを高め、より建設的で実りのある研修環境を築くために不可欠なステップと言えるでしょう。継続的な観察と対応の実践を通じて、このスキルを磨いていくことが推奨されます。